いま世界の潮流は、DX (=デジタルトランスフォーメーション)です。
DXとは何なのかというと、AI/IoT/Robotics/Block chain等の最先端のデジタルテクノロジーを用いて、既存のビジネスモデルやオペレーションを刷新し、顧客に対しこれまでにない程のUX(顧客体験)を提供するということです。
日本企業はオペレーションを効率良く行うということはこれまでやってきました(デジタル技術を用いた刷新は道半ばですが・・・)。ですが、最新のデジタル技術を用いた新規事業はこれまでの延長戦上の「改善」が主です。
DXが前提の世の中では、既存製品起点の改善ではなく、顧客起点でUXをどのように高めていけるか、そのために最適な新規事業・新サービスは何なのかをゼロベースで考える必要があります。その際に最高のUXを実現するために必須なのが、最先端のデジタルテクノロジーなのです。
世界の変化がこれまでになく速い社会では、既存事業のみで今後も長期にわたり稼ぎ続けることは難しくなっています。
各企業は既存事業の戦略を適宜軌道修正して稼いでいきますが、その事業が成熟産業・成熟市場に属している場合、費用対効果が低下していきます。そこで、全社として今後伸びると予測される市場に進出するために、何らかの方法がとられるのです。
時間を買うという意味で、他社を買収して参入する方法と、自社で新規事業として立ち上げる方法の2つがあります。
ここでは、自社で新規事業を立ち上げる場合の方法論について解説したいと思います(買収を活用し、新規市場に参入するケースは、M&Aの記事を参照)
目次
DXを促進する新規事業開発の全体像
BtoC型の新規事業策定のステップは以下に分けられます。
- 新規事業企画
- 前提条件の確認 (ターゲット市場、事業目標値、許容期間、投資金額等)
- ビジネスモデル仮説の構築
- ターゲット市場詳細の確認(市場規模・成長性)
- 顧客セグメンテーション・ペルソナ分析
- 顧客課題の確認 (カスタマージャーニー作成、顧客個別化)
- 課題に対する提供価値の考察
- 想定ソリューションの洗い出し
- 自社特性を踏まえたソリューションの絞り込み
- 同一セグメントにおける競合の把握
- 提供製品・サービスの考察
- 収益モデルの策定
- PMF (Product market fit)の確認
- MVPの開発
- PMFの検証orPivot
- 事業計画・ロードマップ策定
- 実行計画の策定およびモニタリング・評価の仕組み構築
まずは、なにより新規事業のコンセプトを決めなければなりません。
全社事業で決まったターゲット市場を確認することがまず第一です。どこで戦うことが求められており、どの程度の収益をいつまでに出すことが期待されているか等、前提条件を確認します。
その上で、ターゲット市場における顧客のうち、自社として向き合いたい顧客を決めます。その顧客が抱える課題を顧客ごとの行動を分析することによって把握していくのです。
その課題に対して、どのような提供価値・ソリューションがあてはまるか、できる限り想定される案を洗い出すことが必要です。
並行して自社としての強みや確保できるリソースを予め確認しておきましょう。この強みや優位性、確保できるリソース等を評価軸として、洗い出したソリューションとの親和性が高いものを抽出していきます。
戦略コンサルティングファームであるベインアンドカンパニーの調査では、自社のコアケイパビリティからの距離があればあるほど、新規事業の成功確率は下がっていくことが証明されています。
絞り込んだソリューションについて、同一ソリューションを提供している競合企業を洗い出し、その競合企業のサービスについての提供価値、サービスモデル、収益モデル、事業規模等一通り把握するのです。
それら競合企業のサービスを踏まえ、自社としてどのような製品・サービスを提供すべきかを考えていくこととなります。競合のサービスおよびポジショニングを踏まえ、あえてその競合企業と同一のサービス提供を行うことも手として無くはないです。競合より優れた価値・UX (顧客体験)を提供できれば、市場シェアを奪える可能性はあるからです。
その上で、サービスを考察しましょう。但し、DX (デジタルトランスフォーメーション)の時代における新規事業は、下記のKSFを踏まえていることが前提です。
あらゆるシーンの顧客接点から収集した属性×行動データを、UX (顧客体験)向上および顧客個別化に活かす仕組みを構築できていること
サービスが考察できたら、そのサービスにおける顧客からのお金の取り方を考えることとなります。サブスクリプションモデル(継続課金型)でいくのか、製品・商品売り切り型でいくのか等、いくつか想定し、より顧客にとっての価値が高いモデルを選択することとなります。
ここまででビジネスモデル仮説ができあがったと思います。
しかし、ここで投資の意思決定を行うのは時期尚早です。
製品・サービスが実際に市場・顧客に受け入れられそうかを検証することが必要です。それがPMFの確認です。
ここでは、MVP (検証可能な、機能が最小限の製品・サービス)を短期間かつ最小費用で開発し、試験的に世に投下し、反応を見て、そのProductがMarketにfitしそうかを初期的に確認するのです。
そこでPMFが検証できたら、実際どの程度の事業となりそうかを事業計画に落とし込むと共に、その開発のロードマップを作成することとなります。
あとは、その開発の進捗を管理し、開発が完了した後、ローンチし、設定したKPIを管理・改善アクションを起こしていくという流れです。
新規事業開発の個別ステップ
新規事業企画
・前提条件の確認
まずは、全社戦略や事業戦略の中で、新規事業がどの市場・事業をターゲットとしているか確認します。その他、いつまでにどれだけの事業規模にすることが求められているのか、どのタイミングで事業評価を行う必要があるのか、その新規事業にどれだけの投資が行われるのかを確認しましょう。
前提条件を一通り確認したら、これら前提条件の下、新規事業を企画していくこととなります。
・ターゲット市場詳細の確認
参入を検討している市場の市場規模・成長性、市場構造(バリューチェーン・商流、各領域でのプレイヤー・取引先 等)などを把握しましょう。市場を新たに創出する場合はこのような市場環境の分析自体困難です。その場合は、顧客の課題の特定からのスタートとなります。
分析時の論点の例としては、以下です。
- 市場規模・成長性系
- 対象市場は現状どれだけの規模があるのか
- 対象市場は今後も伸びそうか
- 対象市場はどのようなセグメントに分けられるのか
- 各セグメントごとでの成長・縮小の違いはあるか
- 上記の成長・縮小はどの程度のスピードで起こるのか
- どのような要因(市場ドライバー)で成長・縮小が起こっているのか
- 市場構造系
- 対象市場のバリューチェーン・商流はどうなっているか
(例:R&D→調達→製造→物流→販売・マーケ→アフターサービス) - 各領域ごとの規模感・成長性はどうなっているか・大きな変化はあるか
- 各領域ごとのプレイヤーの顔ぶれはどうなっているか・大きな変化はあるか
- 対象市場のバリューチェーン・商流はどうなっているか
よほどニッチな市場でない限り、市場規模は有料・無料レポート(矢野経済研究所、富士経済、ガートナー、IDC等が出している)をGoogleで調べれば大抵見つかります。(上記レポートで見つからない場合、推定するほかない)
そのターゲット市場の市場規模を可能であれば過去5年分、予測5年分でどのように推移するかを確認しましょう。市場規模・成長性をどこで確認すればよいかということですが、以下で確認すればよいでしょう。
- デスクトップリサーチ
- 無料レポート取得
- 有料レポート取得 (矢野経済研究所、富士キメラ、帝国データバンク等)
- 有料DB活用 (SPEEDA 等)
- 有識者インタビュー (ビザスク)
市場が現状どれだけの規模があり、今後どれだけ伸びることが期待できるのかを確認することは対象事業の成長性や収益性にも影響してくるため非常に重要です。(以下は参考スライドです)
今後の伸びが期待できない場合、会社としては今後の投資金額を調整する等といった見極めが必要です。投資リターンが期待できる他事業に投資枠を融通することが全体最適になります。
市場の成長性を把握することと併せて把握すべきは、市場ドライバーとなります。市場ドライバーとは市場規模拡大に寄与する影響要因のことです。対象レポートで成長性の予測が限定的な場合、市場拡大のドライバーが今後どのように推移するかを把握することで、今後の市場拡大をある程度は予測可能です。
ショートカットしたい場合はお金をかけ経営コンサルに外注したり、ピンポイントで特定の情報が欲しい場合はビザスクでさくっと聞いてしまいましょう。ここで時間をかけすぎてもしょうがないので。
情報収集を効率良くやる方法は、各論点をしっかりと設定して、各論点ごとの仮説を立て、仮説を検証するために必要な情報のみをダイレクトに取りにいくということです。
情報収集で時間がかかっている人に共通するのは、良さげな資料があったら、ひたすら読み込んだり、論点とは関係しないが勉強になりそうなものをひたすら探してしまっているということです。無駄かつ時間がもったいないので、上記の方法で効率良くやりましょう。
デスクトップで15分も調べて仮説をダイレクトに検証する情報がなさそうであれば、「ないものはない」と割り切り、知っている人(有識者)に聞くという方法に切り替えましょう。何度も言ってますが、ビザスクが本当におすすめです。
・顧客セグメンテーション・ペルソナ分析
市場には様々な趣味嗜好をもった顧客が存在します。その中でも自社製品・サービスがよりマッチした顧客に対して売っていくことが自社ポジショニングを構築していく観点からも肝要です。
ターゲット顧客さえ明確でない場合、まずは市場の顧客がどのようなセグメントに分けられるか明確にします。顧客セグメンテーションの分類の仕方は多岐にわたります。例えば、簡単な例でいくと、消費者の所得で分類したり、嗜好だとブランド重視か実用性の重視か、年齢、性別、住所、職業等です。
ここで重要なのが、いわゆる「もれなく・だぶりなく」という観点です。漏れやダブりがないように分けなければ、自社としてターゲットすべきセグメントを見落とす懸念があります。
この観点で、市場を正確に捉えましょう。市場がどのような顧客セグメントで構成されていて、各セグメントを合算すると全市場となるということを正しく掴みましょう。
ここが正しく掴めていない場合は、ターゲット顧客・ターゲットセグメントを正しく設定できません。自社はどういった評価軸で、どこを狙い・どこを狙わないのかを明らかにするために、正しく全体をとらえることが非常に大事なのです。
各セグメントあるいはターゲットセグメントを決定できたら、次にやるべきことは具体的な顧客像(ペルソナ)を思い浮かべるということです。
ペルソナ分析とは、顧客を具体的な人物像がわかる粒度まで特定し、分析を行う手法です。 (以下例)
- 属性情報
- 名前:やまだはなこ
- 性別:女
- 年齢:29歳
- 住まい:港区
- 出身:地方、福岡県
- 家族構成:独身、一人暮らし (彼氏持ち)
- 仕事:丸の内のIT企業に勤務 (勤続5年)
- 貯金:まとまった貯蓄はない
- 趣味:旅行好き、写真・動画撮影
- 動態情報
- 仕事で日々を忙殺、ただその中でもInstagramでキラキラした日常の写真をアップすることは欠かせない
- プチ旅行、海外旅行を行うことが生きがいであり、旅先での写真や動画をとりだめている
- 旅行に行きすぎることに加え、物欲もあり、貯金ができていない
- 仕事以外に稼ぐ手段を検討中
・顧客課題の確認 (カスタマージャーニー作成、顧客個別化)
次に、 カスタマージャーニーを作成し、顧客が抱える課題を特定しましょう。
上記ペルソナに関して、対象とする事業領域でのペルソナの行動を洗い出し、各ステップごとの課題や悩み・お困りごとを洗い出すのがこのステップとなります。
例えば、旅行に関する市場を想定している場合は、以下のステップにまずは分けられます。
- 予算の確認
- 旅先の検討
- 旅先の決定
- 旅の準備
- 旅へ出発
- 旅中
- 旅から戻る
- 旅後
各ステップごとで具体的にまずは描き出したペルソナが行う行動を細かく洗い出し、どのような作業が発生しているか把握します。さらに、各作業ごとでの困りごとや課題を具体的に把握しましょう。そうすることで、より課題と提供価値・ソリューション(製品・サービス)がフィットした状態をつくれるのです。
特に、このフィットした状態の実現には、設定したペルソナ固有のものをあげなければならない ことに注意が必要です。
では、各ステップごとの作業や顧客が抱える課題はどのように把握すればよいのでしょうか。
その手段についてはいくつか手法がありますが、代表的なものが以下です。
- 行動観察
- インタビュー (グループ、デプスインタビュー)
- アンケート
グループインタビューだと、一定のグループを集め、グループに対して質問したり、ディスカッションしてもらい、課題を把握していくこととなります。
デプスインタビューは、ペルソナにマッチした対象に対して、深掘り質問を出していき、より具体的な行動や課題を把握する手法です。行動観察は、実際に旅行先の検討からはじめてもらいその行動を具体的に把握していく手法です。最後に、アンケートではアンケート項目をあらかじめ設定し、抽出した対象から回答を収集して傾向を把握する手法です。
このうち何が良い手法なのかということですが、より生生しい結果を得たい場合は、デプスインタビューか行動観察をおすすめします。
具体的な人物から具体的な課題をじっくりと時間をかけ把握できるためです。その他の手法はグループであるがゆえ、他人の意見に影響を受けたり個々の考えを十分に把握することが難しかったりします。
また、アンケートでは定量的には把握できる長所はあるものの、より深ぼった質問はしづらく、課題を生生しくとらえることが難しいです。
初期の課題把握では、デプスインタビュー等でより時間をかけ、課題が本当に課題であることを検証していくことを推奨します。それがよりペルソナ以外の人物にもあてはまるかどうかをアンケートなり、プロトタイプを使用したモニター調査で検証していけばよいのです。
下記は参考です。
上記、ペルソナ分析、カスタマージャーニー作成、顧客調査に関する書籍としておすすめなのが以下です。
はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ(MarkeZine BOOKS) 「顧客視点」で考えるビジネスの課題と可能性
DXを推進するための新規事業開発の方法とは?②
DXを推進するための新規事業開発の方法とは?②
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