そもそも現状分析 (企業分析)はなぜ必要なのか?
今後も企業・事業が継続的に成長していくためには、変化する市場環境・激しくなる競争環境の中での自社特有の強み・課題を特定し、戦略を立て、実行していく必要があります。 自社の現状および自社を取り巻く環境を正しく踏まえられていなければ、自社特有の強み・課題を踏まえた戦略オプションを導出することはできません。
例えば、
- 市場環境・顧客動向を無視した戦略では、提供するサービスや製品が市場トレンドから外れていたり、顧客が抱える課題・ニーズを充足することはなく、いわば博打で製品・サービス開発を行っていることと同義になります。
- 競争環境を無視した戦略では、競合と類似した製品やサービス・価格帯で提供することとなり、十分な差別化が図られず営業人員という人力での消耗戦を繰り広げることとなってしまいますし、狭い顧客セグメントを取り合い、価格競争に陥ってしまい無駄にお互い収益性が落としていってしまうということも起きる可能性があります。
また、上記の外部環境だけでは現状分析 (企業分析)としては不十分です。
- 最後に、自社の現状を分析する必要があります。具体的には過去業績・KPI等の定量情報や自社ケイパビリティ、強み・弱み、現有リソース等の定量・定性情報です。外部環境のみで綺麗な戦略や具体的な施策を抽出できたとしても、果たして自社でできるの?と経営陣に言われかねません。 外部環境を踏まえた戦略・具体的施策は、内部環境に照らし、一定の軸(実現難易度、想定インパクト、実現までの時間軸 等)で評価付けを行い、絞り込む必要があります。
このように戦略オプションの洗い出しや自社ケイパビリティに鑑みた絞り込みには、内部・外部環境の現状分析 (企業分析)を行うことで、収集できた情報や導出できた示唆が欠かせないのです。
しかし、これまで経営コンサルタントとして日本を代表する大企業を支援してきた経験から言えることと言えば、正しく現状分析が行えている企業は少ないということです。 そもそもの市場規模が把握できていなかったり、競合がだれで・どのような取り組みを行っているかを知らなかったり、自社として何が売り・強みなのか、過少評価・過大評価しすぎていたりと言った具合です。
特に、狭い日本市場や対象市場のことを知ることばかりに目がいきすぎており、GAFAや中国のBATの動向や開発したサービスによって形作られている世界の潮流を知らないことで、知らないうちに自社の市場が浸食されているという事実を知らないということが多々ありました。
世界の潮流を知る本としておすすめの本は以下です。
サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル
世界で勝ち抜くためにも、内部・外部の現状分析は欠かせないのにも関わらず、それができていないのであれば、世界における日本企業の存在感は落ちていってしまうことはしょうがないでしょう。 ここまでで現状分析の重要性はご理解いただけたのではないかと思います。
じゃあ、その現状分析の全体像はどうなっていて、実務的には各ステップでどのようなことを行えばよいのか?という疑問が湧いてくるでしょう。
次章で経営コンサルや一流のグローバル企業が実際に行っている現状分析の実務を紹介していきたいと思います。
現状分析の全体像は?各ステップですべきこととは?
現状分析では、市場・顧客動向の理解、競争環境の把握などといった外部環境の分析と、自社の現状を定量的な業績推移、定性的な競争優位性や強み/弱み等の把握といった内部環境の分析を行っていきます。
具体的なステップは以下4つとなります。
- マクロ環境・市場環境の把握
- ターゲット顧客の理解
- 競争環境の把握
- 自社の現状把握
前の記事では2.ターゲット顧客の理解までをご説明しましたので、本記事では3.競争環境の把握からご説明します。
③競争環境の把握
③競争環境の把握では、まずは競合プレイヤーを洗い出すことから始めます。新規市場を切り開いていくスタートアップ企業等は例外ですが、よほどのことが無い限り競合は存在します。
前の記事で顧客の抱える課題とそれに対する提供価値・ソリューション仮説ができたと思います。その同セグメントを取りに行こうとしている競合を見つけるのです。特に、同セグメントの顧客に対して、同じような提供価値で、同じようなソリューションでもって戦ってくる競合がいる場合は、その競合の動向はつぶさに把握しておく必要があります。
競合プレイヤーを洗い出した後は、それらプレイヤーとの比較により、自社との差分を特定していくこととなります。
具体的には、
- 競合と自社の市場シェアの差・推移
- 自社・競合ポジショニング(競合ごとの提供価値・製品ラインナップ/スペック、競争優位性、収益性比較)
ポジショニングの簡単な例は、4象限で横軸に売上高、縦軸に収益性の2軸で取り、競合をプロットする方法があります。プロットした図を確認し、売上と収益性の双方でトップにいるプレイヤーと、売上は高くないものの収益性のみが高いプレイヤーが抽出されるはずです。
軸の取り方としては、財務データの他にも、顧客からのポジション認知 (例えば、ファストファッションの中でも、ZARAはユニクロと比べスタイリッシュ等)で分類する方法等多岐にわたります。この分類はいくつか試行錯誤しながら作りあげるしかないというのが実情です。
これの2領域のプレイヤーのKSF (Key Success Factor:主要成功要因)を抽出し、このKSFを対象市場において勝ち抜くための肝として自社機能の強化を図ることが必要となります。
KSFを正しくとらえることは容易ではありません。一般的なコンサルティング会社でも定義がバラバラで個々のコンサルでも考え方がバラバラであることも多々あります。
KSFは、主要成功プレイヤーのその成功を支える仕組み (バリューチェーン上のオペレーションやビジネスモデル 等)だと考えると良いでしょう。
バリューチェーンは原材料調達⇒開発⇒製造⇒販売・マーケティング⇒アフターサービス等業界によって異なりますが、例えば、各ステップのうち、原材料の調達先を全て自社テリトリーに組み込むことで、安価かつ高品質な原材料が他社に流れないようにし、高い収益性と品質を誇っているといった状況を築けるか 等です。
ここまでで競争環境を見てきましたが、現状のプレイヤーの動きだけでなく、新規/代替プレイヤーが市場そのものを取り込んでしまうこともデジタル時代には普通にある話です。
CDが売れなくなり、レンタルDVDも全てネットに移行したのも、車の保有から利用の流れでカーシェアが普及しつつあるのも、ホテルから民泊の流れも全て、既存の枠組みの中だけで戦っているプレイヤーにはそのような流れは自ら起こすことはできませんでした。
既存のルール、ビジネスモデルにとらわれず、顧客自身の利便性・顧客にとっての価値を見極め、それを充足する製品・サービスを提供できているからこそ、これまで当たり前のように使っていた既存サービスを放棄し、新サービスへスイッチする現象が起きています。
要は、そういった新興プレイヤーの動きも把握しつつ、自社の戦略を構築していくことが必要だということです。
④自社の現状把握
④最後に自社の現状把握をする必要があります。論点としては以下となります。
- これまでどれだけ稼いできたか (定量的な業績)
- これまでどのように稼げてきたか (定性的な理由)
前者は売上や利益等財務データを経年でその推移を確認していきましょう。推移を確認し、その動きの背景を理解しておくことも併せて重要となります。
具体的には、売上面では少なくとも以下の軸で見ていくことが肝要です。
- 製品・サービス別売上高
- 顧客別売上高
- 地域別売上高
どの製品・サービスでもって自社の売上が作られているのか、それはどこの地域のどのような顧客から主にもたらされているのかを把握し、今度もそのセグメントで販売を続けて良いのか、より資源配分を行うべきかの示唆を得ることが目的です。
売上だけでなく、コスト構造も把握しましょう。基本的なコストとしては人件費やマーケティング費用、研究開発費、外注費等、色々とありますが、どのコストが最も大きいのか、直近ではどのコストがどれだけ急激に増加してしまっているのか、といったことは少なくとも把握することが肝要です。
コスト削減の記事でもご説明したいと思いますが、そもそものコスト構造が可視化できていなければ、無駄なコストの削減を行い、成長分野にリソースを投下するといった意思決定もできないのです。
一方で、後者は前者を生み出すためのメカニズムの把握と言えます。事業を行っている上把握できていると思いますが、具体的には、以下を正しく把握することが必要です。
- 事業構造の把握
- 戦略・ビジネスモデル
- ターゲット市場
- 想定顧客
- 提供価値・ソリューション
- 収益モデル (顧客からのお金の取り方)
- オペレーション設計 (価値提供へ向け、どのように事業を運営するか)
- 組織構造・人員配分
- オペレーションフロー
- バリューチェーンのカバレッジ (どの機能がコアで、どこを外注しているか)
- 戦略・ビジネスモデル
- ユニークネス・課題の把握
- 提供価値・ソリューションの需要度(顧客からの評価)
- KBF (顧客の主要購買要因)の充足度
- KSF (市場における主要成功要因)の充足度
- 自社の競争優位性(含. 差別化要素)
- 自社の事業上・バリューチェーン上の強み・弱みの把握
上記要素のうち、競争優位性や強み・弱みは競合との比較でしか測ることはできません。自社単独の分析だけでこれは優位性がある強みがあると言っても意味がないのです。したがって、競争環境の分析は避けて通ることはできません。
また、上記を正しく把握できていなければ、自社としての課題を正しく把握することはできません。
これまでの稼ぎ方を理解し、今後もそれが通用するかは市場トレンド・競争環境に鑑み判断する必要があります。結果次第では、戦略オプションで稼ぎ方を刷新する必要がでてくるのです。
課題の抽出や戦略策定については、次の記事:全社戦略、事業戦略でご説明したいと思います。
これまで現状分析の各ステップを見てきましたが、より書籍で学びたい方は以下をおすすめします。
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今後のステップ
現状分析がすんだら、分析で抽出された課題および今後どこを目指すのか、ビジョンや目標値にむかっての戦略を策定していくこととなります。
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