一流企業がやっている事業戦略の立て方とは?

戦略策定

全社戦略と事業戦略は混同しやすいのですが、事業戦略とは、

対象事業のビジョン・目標値実現のため、ターゲット市場で何をやっていくか (顧客にどのような価値を提供し、競合に対しどのような優位性を築き上げるのか)を定めたものです

 

特に、「ターゲット市場で何をやっていくか (顧客にどのような価値を提供し、競合に対しどのような優位性を築き上げるのか)」の部分については、単純にやりたいことをやるのではなく、①内部環境と②外部環境双方の現状分析を詳細に行った上で、自社としての課題を抽出した後、今後やっていくべきこと(≒戦略オプション ※詳細後述)を導出するということです。

複数事業を有する企業であれば、全社戦略で定めたポートフォリオ管理の方針(事業別のビジョン・目標値、目標値実現のための投資金額)に沿って、事業戦略を策定していくことになります。

 

事業戦略策定の全体像

事業戦略策定のステップとしては、大きく下記4つに分けられます。

  1. ポートフォリオ管理方針の確認
  2. 現状分析 (外部環境・内部環境)
  3. 課題の抽出
  4. 戦略オプションの導出

 

まずは、全社戦略にて策定したポートフォリオ管理方針を確認し、対象事業に何が求められているのか、その実現にあたりどの程度の資金が割り当てられているか確認しましょう。

その上で、上記方針に沿って、事業戦略を策定していくことになります。

何よりもまず現状分析を行うことが重要なステップとなります。市場・顧客動向、競争環境等の外部環境の動きと、自社の市場・競争環境内でのポジショニング、業績 等を把握していくこととなります。

現状分析結果(含. 将来トレンド)を踏まえ、将来のビジョン・目標値の実現にあたり、自社として課題「何を解決しなければならないか」、「何をやらなければならないか」を定義しましょう。

そして最後に、その課題を解決していくために何をすべきかを戦略オプションとして洗い出す。洗い出した後は、一定の評価軸(インパクト、実現可能性 等)で評価付けを行い、自社としての事業戦略としてまとめあげます。

 

 

事業戦略策定の個別ステップ

ポートフォリオ管理方針の確認

当ステップは、主に複数事業を展開している企業が対象になりますが、全社戦略を策定する際に行った、ポートフォリオ管理方針を参照し、対象事業に何が求められているのか、その実現にあたりどの程度の資金が割り当てられているか確認することが必要となります。

具体的に主に確認すべき事項は以下となります。

  1. 全社ミッション・ビジョン
  2. 事業部のビジョン
  3. 事業部の目標値と実現タイミング
  4. 事業部への資源配分(ヒト・モノ・カネ)

 

①の全社ミッション・ビジョンに関して、そもそもミッションとはなんぞやということであるが、ミッションは一言で会社の存在意義であり、どのような世界を創りたいかということを表現したものです。

続く、ビジョンは上記世界を実現するために、将来自社として何でもってどのようなポジションを築いているかを表現したものです。

これらミッションとビジョンを確認し、自社としての方向性を再認識することが重要です。ミッションやビジョンとずれた施策の実施は、企業・事業のコアから離れているということでもあり、自社の強みも活かせず、ブランドも棄損し、社内の納得感も得られず、実効性・実行力の乏しいものと化す可能性が高くなります。

次に、②事業部で求められれる目標値と実現タイミングを確認することが必要となります。目標値は売上や利益の形で示されることが多く、その実現タイミングも短期(1~2年)・中期 (3~5年) ・長期 (6年以降) で示されます。

目標値と実現タイミングは、戦略オプションの抽出に影響します。短期的な目標実現が求められる場合、早期のインパクトが期待できるものを実行対象とするといった感じです。

最後に、④事業部への資源配分では、上記目標値の実現にあたり、予算がどれだけ割り当てられているかを確認することとなります。

投下できるリソースがなければ、いくら質の良い戦略を立てたとしても効果は期待できません。

戦略に沿って、十分なリソース(ヒト・モノ・カネ等)を最適なタイミングで投入し、スピード感をもって市場シェアの確保し、参入障壁を築いていってこそ、競合との競争に勝ち抜いていけるのです。

 

 

現状分析 (外部環境・内部環境)

現状分析では、市場・顧客動向の理解、競争環境の把握などといった外部環境の分析と、自社の現状を定量的な業績推移、定性的な競争優位性や強み/弱み等の把握といった内部環境の分析を行っていくこととなります。

具体的なステップは以下4つとなります。

  1. マクロ環境・市場環境の把握
  2. ターゲット顧客の理解
  3. 競争環境の把握
  4. 自社の現状把握

 

こちらについては、別記事で詳細に説明しているので、以下の記事を参照ください。

課題の抽出

課題の抽出では、ビジョンや目標値と現状とを比較して、自社として将来的に取り組むべき課題を抽出しましょう。

当ステップでは以下2つを行うことが必要です。

  • 現状と目標値との差分
  • 上記差分を埋めるにあたっての自社の課題の抽出

 

まず、前者は売上・利益等の定量データからどれだけ差分があるかを定量的に把握しましょう。加えて、ビジョン等の定性的な目標についても差分を表現しましょう。

基本的には、課題は「何か」との比較によって抽出できます。現状⇔あるべき、自社⇔競合との比較 等です。

現状分析の章で自社の現状を正しく把握できていれば、整理できるでしょう。

特に、対象市場で勝ち抜くために必要なKSFを充足できていない場合、それはその改善がそのまま課題となります。自社が築きたいポジションがあり、そのポジションと同一ポジションにいる競合とでKSFの充足度を比較し、差分ないし課題を抽出しましょう。

顧客に対する価値提供の観点では、KBFを適切に充足できているかを競合との比較を行うことで、課題を抽出しましょう。

課題をあらかた洗い出したら、ここから課題の評価に入ります。全ての課題に対処するようではいくらリソースがあっても足りない。優先順位付けを行い、課題解決のインパクトが大きなもの、実現可能性が高いものを優先的に行うことが肝要です。

一般的には、洗い出した課題を①課題解決のインパクト×②実現可能性の2軸でプロットし、どちらも高い評価を得ているものから実行していくこととなります。これにさらにカスタマイズし、③実現タイミング 等加えてもよい。短期的な効果を求めるのであれば、③実現タイミングは即時、②の実現可能性は取り組みやすいものという評価になるはずです。

 

戦略オプション導出

最後に、課題解決のための打ち手となる戦略オプションの導出を行っていくこととなります。

前章で取り組むべき課題が抽出されたと思いますが、その課題をどのように解決していくか想定される案を漏れなく洗い出すことが先決となります。

オプションの洗い出しは各課題に紐づいている必要があるのですが、例えば大きく売上拡大系と収益性改善系のもので検討の軸を分解したとします。

  1. 売上拡大(既存製品・サービス)
    • 既存製品・サービスの売上向上
      • 顧客あたりLTVの向上
      • 顧客数の増加
        • 既存顧客の維持 (解約率の減少)
        • 新規顧客の獲得
    • 新規製品・サービスの展開

  2. 収益性改善
    • 売上原価の抑制
      • 原材料費の抑制
      • 労務費の抑制 など
    • 販売費及び一般管理費の抑制
      • 人件費の抑制
      • 広告宣伝費の抑制
      • 地代家賃の抑制 など

 

 

 

オプションの洗い出しとしては、ここからさらに想定できる打ち手をできる限り洗い出していくことが必要となります。

ここでは実現可能性や自社の強みとの親和性等は一切考えず、抜け漏れなく洗い出しを行うことが肝要です。
(あとで、一定の評価軸で評価・絞り込みを行うので)

この中で、顧客数の増加のうち、新規顧客の獲得であれば、営業関連で課題が出ていれば「営業戦略・生産性の見直し」と出てくるかもしれません。さらに、営業の生産性に関しては「営業の質の向上」×「社員あたりの営業量の増加」等に分解できるかのではないでしょうか。加えて、社員あたりの営業量の増加だと、訪問エリアの見直しや各エリアへの社員配置の方針見直しであったり、間接業務の時間削減等いくつか出せるかと思います。

また、市場構造的に日本エリアではさらなる顧客の獲得が難しい場合は、新規エリアの開拓として、中国に進出する等の策も出てくるかもしれません。その場合、進出の方法として、自社単独で展開するのか、他社と連携するのか、他社を買収してしまうのかといった打ち手が想定できます。

M&A・提携新規事業開発コスト削減といった打ち手に落ち着いた場合、事業部だけに丸投げしてしまうと、一気に戦略の実行力が落ちてしまうケースが少なくありません。一気に難易度が高まってしまうからです。各記事を参考にしつつ、実践してみることをおすすめします。

こういった経営マターは経営陣の関与度を高めたり、経営企画が戦略実行を管理・推進することが必要となってきます。

 

上記のように想定できる戦略オプションを洗い出した後は、大小様々でていると思いますが、それぞれ大まかなカテゴリー分けを行いましょう。そして、洗い出した戦略オプションは最後に評価付けを行い、事業戦略として取りまとめましょう。

戦略オプションのも課題の評価時と同様に評価していくことになりますが、観点としては以下となります。ここまで段階を踏まなくてもよいかもですが、だいたいこのような観点で評価していきます。

  • 一次評価:外部環境によるスクリーニング
    • 市場環境の分析結果の考慮:市場の伸び・市場機会を捉えた打ち手か
    • 顧客動向の分析結果の考慮:顧客の課題・ニーズを充足できているか、KBFを充足できているか
    • 競争環境の分析結果の考慮:競合とのポジショニングでかぶっていないか、十分な差別化を行えているか

  • 二次評価:内部環境によるスクリーニング
    • 自社課題の考慮:課題解決に寄与するか否か
    • 自社の強み・優位性の合致度合い
    • 自社の組織文化/バリューとの整合性
    • 全社戦略などとの親和性・整合性 等

  • 三次評価:優先順位付け
    • 実現インパクト 
    • 実現可能性・実行難易度
    • インパクト発現の時間軸 等

 

上記はあくまで例ですが、社内説得材料として正しく評価してきてますということを社内外に示し、納得感をもって戦略を実行するためには、このステップを丁寧に行うことが必要となります。

 


実務で使える 戦略の教科書

 


企業価値4倍のマネジメント ―結果にこだわるコンサルタントの定石

 


事業戦略のレシピ

 


イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

 


新版 問題解決プロフェッショナル―思考と技術

 


ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

 


戦略参謀の仕事――プロフェッショナル人材になる79のアドバイス

 


企業参謀―戦略的思考とはなにか

 

今後のステップ

今後のステップとしては、取りまとめた事業戦略を実行部隊に落としていかなければなりません。そこで必要となるのが実行計画です。それは別記事で整理しているため、適宜参照いただきたい

実行計画を正しく作成できたら、その実行責任者とそのモニタリング頻度等を設定し、実行管理を行い、適宜計画の修正ないし戦略のアジャストを行っていくことが今後のステップとなります。

次の記事:新規事業開発

次の記事:M&A・提携

次の記事:コストダウン

次の記事:戦略の管理・推進

次の記事:意思決定の促進

 

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