自社にない技術の活用、販売協力、ブランドの付与など、自社単独で事業を行っていく際には、自社の組織力、人材力によって成長に制約がかかります。そこで、外部の力を活用することで、さらなる成長を促進することができます。
しかし、業務提携によって、何をなしたいのか不明なまま、提携を行うことで、自社の貴重なリソースを非効率に使ってしまう等問題もしばしば発生します。
さらに、業務提携では、自社の貴重なリソース(人、モノ、金、情報等)を開示することとなり、自社情報をうまく奪われてしまうこともありうるし、他社からの貢献がないまま、自社のみリソースを提供し続ける事例等あります。
それらを防止するために契約を慎重に行う必要があります。例えば、販売提携では、最低購入数量であったり、独占販売権の付与であったり、自社・他社ともに提携をすることの意義に照らし、双方の利をうまく調整していく必要があります。
業務提携の全体像
業務提携のステップとしては、大きく下記4つに分けられます
- アライアンス戦略策定
- ソーシング (=業務提携先探し→ロング・ショートリスト作成)
- ディール実行
- 業務提携後のモニタリング
企業・事業戦略の記事でも説明しましたが、何よりもまず行うべきはアライアンス戦略策定です。アライアンスを検討している企業の中には、何のためのアライアンスかを明らかにせず、いきなりソーシングを行い、ああでもないこうでもないといって、いつまでもソーシングプロセスから抜け出せない企業もいます。
あらかじめアライアンス戦略を策定しておくことで、なぜアライアンスが必要なのか、その目的達成にはどのような企業と提携する必要があるのかを明確にでき、その基準に沿って、提携先候補を抽出すればよく、大変効率的な検討が可能となります。
③ディール実行は、基本的にはM&Aと似たステップとなります。
但し、買収ではないため、DDのステップは簡素化されることが多いです。一方で、契約面では、どのような範囲で、どのように互いのリソースを持ち寄り、どのように連携していくか、稼いだ分の取り分はどのように分配するかを細かく規定しておくことが肝要となります。
そして最後に、④業務提携後のモニタリングですが、提携契約を締結することがゴールではありません。提携後、提携企業双方に協業のシナジーを創出していくことが重要となります。
契約時点で事細かに連携方法等を定めていたとしても、実務的な問題は発生します。その際に、どのように問題に対処し、想定したシナジーをいかに生み出していくかは、事務局等を設置し、推進していくことが肝要となります。
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業務提携の個別ステップ
アライアンス戦略策定
全体像の箇所でもふれたように、アライアンス戦略がなければ、ほとんどのケースで失敗するか、非常に非効率な検討となります。
全社・事業戦略に沿って、業務提携を検討していくのですが、事業戦略上、どのような企業と連携し、どのような成長ストーリーを描くかという、アライアンス戦略の検討が弱い場合があります。
業務提携が失敗するのは、戦略の不在と業務提携後のモニタリングが不十分なことが理由として多くあります。
なぜこの会社と連携しなければならないのか、ここをあいまいにしてまま検討を進めることは、作業効率を著しく下げ、社内からの反発分子も発生する可能性も高くなります。
アライアンス戦略の策定では、事業戦略で明確になった事業を強化するために、どのような強みを有している会社で、どのくらいの規模の会社とどのううに連携すべきか、その企業とどのような成長ストーリーを描くかを決めるということです。
では、アライアンス戦略とは何を最低限押さえておけばよいのでしょうか?それは以下の観点です。
- 全社・事業戦略との整合性
- 補完・強化・展開領域及び製品
- 提携の内容 (技術提携、生産提携、販売提携 等)
- 成長ストーリー
まずは、全社・事業戦略との整合性ですが、全社戦略では各事業の目標値が示され、そこへの資源配分も明確になっているはずです。そのポートフォリオ方針に沿って、事業戦略が策定され、対象事業における競合との勝ち抜きシナリオが整理されているはずです。
その方針に沿って、目的を実現するためには具体的にどのような企業がいるのか、その企業とどのような成長ストーリーを描けるかを考えるのがアライアンス戦略となります。
業務提携によって、「何を果たしたいのか」を明確にしたら、その仮企業と共に、どのような成長ストーリーを描けるかを想定することが重要です。
提携の内容としては、主に3つあります。まずは、技術提携です。これは既存製品の改良であったり、新製品の共同開発を行っていくこととなります。
次に、生産提携は、開発済みの製品に関して、その製品の製造を双方あるいは一方で行っていくことです。
最後に、販売提携は、開発・製造した製品をだれが、どれだけ、どのように販売していくかを決めるものです。
上記三つのように、企業のバリューチェーンのうち、主要な開発→製造→販売のいずれかを自社だけで完遂できない場合、他社の力も借り、オペレートしていくことは成長にとって欠かせない施策でもあります。
このように提携内容を考えたら、ソーシングへ向け、提携企業とどのような成長ストーリーを描けるかを検討しておくことが肝要です。
(2) ソーシング (=業務提携先探し→ロング・ショートリスト作成)
上記ストーリーを実現するうえで、どのような企業を獲得する必要があるのかを具体的に企業名を探していく作業が当ステップとなります。
まずは、「ロングリスト作成の分母となる対象をどこに定めるか」ということを考えなければなりません。
社内に知見者(各企業とリレーションを築いている営業担当者等)がいる場合、そこをあたるのが先決です。社内知見者に初期データベースを作成してもらい、洗い出された企業が出展している企業イベントをデスクトップリサーチを行っていくのがよいでしょう。
その他の方法としては、SPEEDAやCapital IQを用いて、キーワードを複数入れ込み、一気に抽出するやり方があります。但し、この場合、関係のない企業も抽出される可能性も高く、はじく作業で無駄な工数が割かれるケースも多々あります。
外注する場合ですと、経営コンサルティング会社や投資銀行など外部の企業に委託し、ロングリストを自体を作成してもらうのも一案です。
ある程度の企業が抽出できたら、一定の軸で企業を絞り込み、ロングリスト化していくこととなります。
どのような軸で初期評価を行うかというと、以下の観点です。
- 欲しい機能をもっていそうか
- 財務面は健全か (倒産リスクはないか)
まず明らかに対象外の企業を外していく作業が必要となります。そこで欲しい機能もっていそうかをおおまかにデスクトップあるいはその顧客として電話で確認するなり、確認していくこととなります。
デスクトップでは、企業HPを確認すれば大抵わかるはずです。さらに詳細情報が欲しければ、製品紹介のページを確認すればよいし、顧客として電話にて詳細を聞くこともできます。但し、まだロングリスト作成の段階であるため、下手に工数を割くのは得策ではありません。大体のあたりをつけるのが肝要です。
できあがったロングリストは20-30社になっているはずです。これら企業をさらに調査・評価付けを行い、実際の意向確認を行う対象企業群となるショートリストを作成していかねばなりません。
ロングリストに挙がった企業をどのような評価軸で評価すべきかというと以下が代表的な軸となります。
- 獲得したい機能の対象会社の強さ (対象会社以外に有望な企業はいないか)
- 事業規模 (技術力、生産能力、販売力、ブランド等を担保する指標)
- 財務・法務リスク (倒産の可能性はないか、事業悪化の可能性はないか)
上記軸で一定の評価を行い、5~7社程度のショートリストを作成します。当ショートリストの企業ごとの企業の会社概要、製品概要、業績、対象市場の伸び等総合的かつ簡易に調査したパッケージを作成し、どの企業に提携意向があるかを確認していくかを決定することとなります。
その意向確認のアプローチ先としては3社程度をまずは抽出しましょう。意向確認と併せて対象会社の事業戦略や製品開発状況等確認すべきポイントは別途整理しておき、併せて情報を収集できる状態としておくことが重要です。
ではその意向確認をどのように行うかというところですが、M&Aアドバイザリーサービス会社、コンサルティング会社経由あるいは外部インタビュー会社を通じて行うか、直接聞くという方法がとられます。
提携意向がない企業は提携が難しいため、将来的な提携先候補とし、意向があった企業のうち、どの企業を実際に提携していくかを決定する必要があります。
意向があった企業からとれたヒアリング結果を基に、さらに企業パッケージを肉付けしていくこととなります。さらには、自社企業文化及び事業戦略との整合性も評価ポイントとなります。異なる文化を有する場合、業務提携で苦労するし、シナジーを出していくのが難しいケースがあります。
(3) ディール実行
提携候補が決まった後は、ディールを以下の流れで進めます。
⓪ 検討チーム組成 (アドバイザー選定、WG(ワーキンググループ)組成)
① NDA締結
② 初期情報開示
③ 初期評価
④ LOI締結
⑤ DD (デューデリジェンス) ※どこまでやるかは「決め」
⑥ プロジェクション作成
⑦ 契約交渉・DA締結
上記流れで、業務提携を実行していくが、特に、重要な④と⑦の契約面の話を中心に解説したいと思います。
契約の中身ですが、先に見た3つの提携方法を具体的に定めていくことが必要だということです。ここでは代表的な技術提携 (共同開発)と販売提携の中身についてみていきたいと思います。
まず、技術提携(共同開発)であるが、主に以下を定めなければなりません。
- 秘密保持
- 成果物の帰属先
- 成果物の利用方法
- 開発費用・役割の分担・負担方法
- 共同開発の進め方・モニタリング方法
- 有効期限・終了条件
何より、秘密保持契約です。
提携で知りえた互いの情報については外部に漏れないようにしないといけない。互いが持ち寄る技術以外にも、各種情報や開発体制・ノウハウ等が渡る可能性は高いため、そのような知れてしまった情報の扱いについては契約面で未然に防ぐ必要があります。
次に、共同開発でできあがった成果物について、その権利関係はどちらにあるのか、どのように双方の企業がその成果物を利用していくべきかを取り決める必要があります。
そして、その成果物をどのような役割分担でつくるのかを決めます。提供するリソースの種類 (どれだけのどのような人/金か?)を定め、双方がどれだけ、どのようなタイミングで負担していくかを細かく定める必要があります。
そのような取り決めなく、業務提携を結び、一方だけリソースを提供し、出来上がった成果物に一方がフリーライドするといった結果に終わる業務提携も中にはあります。
そして最後に、共同開発の進め方に関して、上記で双方が提供するリソースを定めましたが、そのリソースでどのよに開発を進めていくか、どのように進捗状況をモニタリングしていくかを定める必要があります。
一般的には、事務局が組成され、実務担当者がアサインされたうえで、共同開発が進んでいくが、その際の大まかなロードマップ・タスクを実行計画として策定し、管理するKPIを設定し、各種会議体を設置し、KPIや実行上の課題を管理・対処していくというのが流れです。
次に、販売提携であるが、主に以下を定めなければなりません。
- 秘密保持
- 販売商品・販売地域
- 競合製品の販売可否
- 独占販売権の有無・範囲
- 最低購入数量
- 有効期限・終了条件
共同開発と同様に、秘密保持契約は締結する必要があります。販売提携といえども、販売する商品・製品の情報を知りえることは多く、その情報の取り扱いについては双方で定めておくほうがよいでしょう。
次に、販売商品・販売地域に関して、販売する商品をどれに設定するか、それをどこで販売するかを定義することが必要です。競合製品の販売可否や独占販売権とも関連してきますが、提携範囲として販売する商品が自社だけで販売可能なものなのか、競合も販売可能かどうかで、自社としての収益性にも影響してくるためです。
最低購入数量は、自社が提携先の商品を販売することになったとして、提携先としては製造した製品を自社の都合だけで、購入数量を調整されては困るため、あらかじめ、最低購入数量を定義することが多いです。
そして、最後に有効期限・終了条件ですが、この販売提携がいつ、どのような条件になったら終了するかあらかじめ定めておく必要があります。有効期限がきたとしても期間の延長を行うことで、提携期間を延長することは可能です。
(4) 業務提携後のモニタリング
最後に業務提携後のモニタリングですが、業務提携をどのように行っていくか、契約面で取り決めたはいいものの、実務的にどのようにアライアンスを行っていくべきかを定める必要があります。
先に述べたように、業務提携を推進する事務局と実務担当者を双方の企業からアサインして、どのように業務提携を実行していくか実行計画を定める必要があります。
上記実行計画がカバーすべきは、誰が、いつまでに、何をやるか、ということです。具体的に何を実行すべきかを計画し、業務提携後にはどのように頻度で、どのような会議体でそれをチェックするかを定めておく必要があります。
計画に沿ってモニタリングを行っていくことで計画との差分が見え、その後のアクションの策定・実行が容易となります。
今後のステップ
今後のステップとしては、業務提携で想定した結果が出ているかを策定したモニタリング計画に沿ってチェックしていくこととなります。
想定した効果が出ていない場合は、今後の業務提携の期間を短くすることも一案であるし、連携方法を補正し、抱えている課題を解決していくことが肝要となります。
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